高松高等裁判所 昭和28年(う)1009号 判決
原判決の理由中には「被告人はその場に在つた焼酎八合入の一升瓶を右手に取り上げ肩に手を掛けて来た所谷の方に向き直りつつこれを打ち下したところ一升瓶は所谷の顔面に当つて砕けた」旨の認定があるけれども焼酎八合入の一升瓶が被害者の顔面に当つて砕けたものとすれば被害者の顔面に溢血乃至瘤を生ずべき筈であるのに被害者の顔面は勿論全身何れの部分にも右の如き痕跡を止めなかつたことは原審並びに当審証人小倉紀、同森田権平の各尋問調書により明らかにして、この事実と当審証人中田君子の尋問調書中被告人は一升瓶を振り上げた途端に被害者に絡みつかれて板の間に倒れた拍子に瓶が板の間に当つて砕けた旨の供述記載を総合すれば一升瓶が被害者の顔に当つて砕けた旨の原審の認定は誤りと断ぜざるを得ない。
而して右の如き医学上の法則を無視して被告人の警察及び検察庁に於ける供述調書の記載を軽信し被告人が一升瓶で被害者の顔面を打ちこのため瓶が破損したという原審の認定は失当であるけれども打撃に起因する傷害については原判決は何等の認定をもしていないから右の誤りは判決に影響を及ぼすべき事実の誤認とは言えない。又論旨は被害者の受けた剌創又は切創は被告人がその手中に残つていた、破損した一升瓶を振廻し又はこれを以つて突いた結果生じたものでなく被告人と格闘中、床上に散乱していた瓶の破片で自ら負傷したものであると主張するけれども原判決挙示の全証拠、就中、証第一号証の瓶の破片中瓶の首のみはその大部分が血で覆われているのにその他の多数の破片には殆んど血が附着していないこと及び当審証人中田君子の尋問調書中、松浦が瓶を振り上げたのを見た、二人が倒れた時は松浦の上から所谷が重なつて倒れた、それから松浦が逃げ場がなく箪笥の方まで押しつめられた旨の供述記載を綜合すれば被告人は被害者に組み伏せられて格闘中割れて手中に残つた一升瓶の首を振り廻わし又はこれを以つて被害者の顔面を突き判示傷害を与えたものと認むるに十分であるから、原判決には所論の如き事実の誤認ありとは認められない。
(裁判長判事 三野盛一 判事 谷弓雄 判事 呉屋愛永)